残雪アルプスの山並みが、雪解け水を満々とたたえた水田にまるで逆さ富士のように映し出されたこの季節の風景が、私は一番好きです。
長い長い冬を終え、ほんの一瞬のまばゆいばかりの春を過ごし、一気に忙しさを迎えるこの時期、喧騒と静寂のほんの狭間に田面に映った駒の峰々がふと心を和ませてくれます。
子どもの頃、どの田にも歓声と歓びが満ち溢れていたように思います。田植えは、一年で一番のメインイベントでありました。集落内の主な親戚が「ゆい」と称して、互いの労力を補いながら、今日はAさんの田植え、明日はBさん、あさってはCさんと、皆が助け合って田植えをこなしました。子どもも貴重な戦力で、この時期学校は田植え休みと言って一週間くらいの休みになりました。ほとんどが農家の子どもなので、この休みは文字通り労働のための休みでした。宿題はほとんどなかったように覚えています。とにかく来る日も来る日も田植えの手伝いに明け暮れる日々でした。
大人は10センチから15センチくらいに区切られたますを、4〜5列ほどもって植えていましたが、子どもたちは小さい花びくを腰につけ、1〜2列植えるのがやっと、小学校の高学年ともなると3列くらい植えられるようになり、ちょっと大人に近づいたようで、鼻高々だったことを思い出します。
なによりも楽しみだったのがお茶の時間でした。午前と午後のお茶の時間が待ち遠しかったこと。お茶の時間になると、各家のお嫁さんやらお姑さんやらが、それぞれ趣向を凝らしたごちそうを持ち寄ってきました。皆で田圃のあぜで車座になっていただくお茶のごちそうが、本当においしく楽しかったのを今でも鮮明に覚えています。子どもの歓声と大人の笑い声がどの田にも響いていました。
田植えが終わると「田植えじまい」と言って皆で酒を酌み交わし、お祝いをしました。すべてがとてものどかで、賑やかでした。
今日は、トルコギキョウの定植を済ませました。オホーツク、仙丈の華、新品種のアプリコット・ルナ。収穫は8月の旧盆過ぎかな? お楽しみに。
さてさて今夜は、「田植えじまい」ならぬ「トルコ植えじまい」で一杯いきますかね! とっておきの球磨焼酎(人吉からの直送、5年熟成もの)のオン・ザ・ロックが格別です。
−酒の肴は、田植えの思い出−
文: JA上伊那花き部会 伊那支会長 酒井弘道
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